nightmare
おまえこそが邪悪なものなのだ。
知らない間に、太陽の傾く時間が遅くなっていた。まだ明るいようで、でもまたそこになにか暗い気配もひろがりつつあった。影はぼくのからだをこえて伸びていく。
それにしてもぼくは影にじぶんをみるのではなく、影そのものをみているだけだった。そのうち山々に光が遮られはじめると、影は、ぼくの足もとにかすかにまとわりつくほど小さく、薄くなった。
おまえこそがなにもわかっていない。
そんなことを言う者はいなかった。なんの声だ。影に声などあるわけではないのに。
むしろ、声などではなく、見えなくなった影は、ぼくという根拠をはなれて灯のそばにいちどは集まって、そこを離れるように伸びている。
ぼくはiPhoneにイヤホンをさしてジミヘンドリクスアンドエクスペリエンスの「真夜中のランプ」をききはじめた、歩きながら。その曲は「真夜中のランプ」のテイクとしては比較的長いバージョンでジミの声がギターの野生的な演奏よりももっと、彼の孤独をあらわしていると思った。いやジミのギターによって声があるものの影のように、力をもっていたのかもしない。
街灯に欅の若葉が、きっとそのような光ではない光によって本来とは違うみどりを映し出している。いや、映し出されてしまっている。