みずたまり

走りながら睡れ

白い花

窓に白い花が見える。

 

去年はどうだったかなと思うが、なんだか思い出せない。いまの仕事場になって6年目にやっと気づいたということか。

 

白い花は、高さ10メートルくらいの泰山木の上のほうに咲いている。もうちょっと背の低い泰山木も敷地の他のところにあって、去年は一輪だけ咲いていた。窓に見る泰山木の高木の花はみっつよっつある。

 

あっ、咲いてますね。というような会話をまだ誰ともしていない。誰も白い花に気づいていないのだろうか。窓の泰山木に。

 

むかし、むかし、「実はずっと好きだったんです」という手紙をもらった、という手紙をもらったことがある。ややこしいけれど、つまり、ぼくが「実はずっと好きだったんです」と言われたわけではなく、メールなどない時代だったので、「実はずっと好きだったんです」という手紙をもらったのだけれど、どうしようかという相談のような手紙をもらったのだった。その手紙のひとは、「実はずっと好きだったんです」という言葉にはとても力があるというようなことを書いていた。その手紙を読みながら、ぼくは、いつか「実はずっと好きだったんです」と誰かに言わなければならない気持ちになったのだった。結局、「実はずっと好きだったんです」と誰かに言ったことはなかったけれど。

 

二ヶ月ほど前。昔の手紙ががさっと出てきて、「実はずっと好きだったんです」というその手紙もそのなかにあって、読み返した。その手紙には家族の死のことや「実はずっと好きだったんです」と言われたことや、ぼくについてのことが書かれていた。そこにむかしむかしのぼくには気づくべきなのにまったく気づくことができなかったことをみつけた。

 

そこには白い花がちいさく咲いていた。

 

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