みずたまり

はしりながらねむれ

机と椅子

机と椅子ビザールの開店は1988年11月16日。今年は2012年だから24年間つづいたことになる。だが残念なことにビザールは24年の歴史を今月で閉じる。それで、お店の片付けに昨日と今日とすこしだけど行ってきた。ビザールは心というか思想がすみずみにまで行き届いた店で、椅子は既製品だそうだが、机も、棚も、カウンターもみんな店主が図面/スケッチを描いて職人さんにつくってもらったのだそうだ。開店前に、その机や棚ができて備え付けられたときに、こともあろうに店主はどうしてもしっくりこなくて、色を塗り替えたりもしたのだそうだ。そういうこだわりはちいさなところにもあって、入口のドアノブ、トイレのドアノブ、洗面蛇口、スピーカーなどきりがない。言い出したらきりがないが、ひとつひとつに店の思想が行き渡っている。もちろん、料理もお酒もその思想を具現したもので、店主は声高に言わなかったが化学調味料を使わないとか無農薬や減農薬の野菜をつかうとか、そういうお店であった。

幡さんの三線ライブを近年は毎年夏にやったこと、ウィスコンシンから電話をかけたこと、あつこさんがぼくのことを自称母親だと言い出したこと。とっくみあいの喧嘩がおきそうになったこと。お店の片付けを手伝いながらどうしようもなくそういったことが思われた。店主やあつこさんや、よく集う仲間。みんな若かった。本当は若かったのかどうかわからないが、店がおわるいま思うと、きっと若かったのだろうという気がしてくる。池田満寿夫の版画がなくなり、メルクスの自転車がなくなり、あちこちに並んでいた壜がなくなっていく。

いつか店主は別の店をひらくという。それまで、何人かでテーブルや椅子を預かると称して譲り受けることになった。ぼくもひとつ譲り受けた。持ち帰ってみがいて、いま、小さな書斎に入れた。本を読んだり、文章を書いたり、短歌をつくったり。ビザールの思想としての机と椅子。それがここにあることがかなしいけれど、うれしい。